コント55号の話である。戦後史上、もっとも面白いと思ったコメディアンは誰か? と聞かれると、私なら迷わず、萩本欽一と坂上二郎のコント55号と答えるだろう。しかし、もうコント55号をリアルで見ることはできない。東日本大震災の前日である3月10日に坂上二郎が亡くなったからだ。
坂上二郎といえば、昭和9年会に参加していたが、会の幹事役を積極的に買って出ていた
長門裕之も亡くなってしまった。
昭和は遠くなりにけり、という決まり文句が出てしまう。
さて、その坂上二郎が亡くなった直接の原因は脳梗塞である。
今から8年前の2003年12月5日、坂上二郎がその2カ月前から、ゴルフのプレー中に脳血栓の症状を起こして入院していたことが明らかになった。
当時の報道では、ゴルフのプレー中、素振り後にドライバーショットを打とうとしたところ突然、体が静止。そのまま倒れたという。
幸運にも一緒に回っていたのが主治医だったためそのまま入院。1週間ほど前には退院した。
この時点では「全快」といわれ、実際に仕事もしていたが、その後、また倒れてしまった。
脳梗塞は2度3度と倒れることがあるから厄介である。
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復帰はしたものの時間の経過とともに脳梗塞が進行し、昨年8月に再び倒れた。すでに顔から下の手足などほぼ全身が不自由になり、亡くなる2ヶ月前の11年1月に決まっていた舞台の出演もかなわなかった。
俳優として多くのドラマに出演し、歌も得意な坂上二郎だが、本人いわく、いちばん印象に残る仕事は
萩本欽一とのコント55号時代だという。
笑いの源はアドリブ
萩本欽一と坂上二郎が出会ったのは浅草フランス座。当時萩本欽一が21歳で、坂上二郎が28歳だった。萩本欽一のほうが7歳も年下だったわけだ。
善良な一市民役の坂上二郎に、萩本欽一がとてつもないいちゃもんや課題をぶつけて困らせるパターン。そのやりとりに、坂上二郎の芸達者なリアクションや、舞台を所狭しと動き回るアクションコントに、まさに火がつくような爆笑をもたらした。
コント55号の舞台を見た人は、最初は萩本欽一の方が突っ込んでいるように見えるが、次第に、実は萩本欽一はボケであり、坂上二郎がツッコミなのだと気づく。
お互いの役回りを勘違いしてしまうほど、従来の笑いのセオリーを超えたパワーを2人は発揮していたのである。
いずれにしても、40年以上もコンビを続けたぐらいだから、強いシンパシーを感じた初対面を連想するが、この頃の関係は水と油だったという。
チャップリンを目指してコメディアンになった萩本欽一は、「笑いの原則」を大切にした。筆者は、「欽ちゃんバンド」で活躍した
清水由貴子から、萩本欽一についてこんな「原則」を聞いている。
「大将(萩本)は、あまり注意はしないんです。怒るということもほとんどないですね。ただ、笑いに対しては厳しく、1度だけ、わざと間違えて笑いをとろうとしたのを厳しく怒ったのを見たことがあります。あとは下ネタも禁止で、言うと一口1000円の罰金箱がありました。佐藤B作さんがいちばん罰金が多かったんですけど(笑)」
一方、歌手になり損ね、師匠格の阿部昇二と背水の陣でコントをしていた坂上二郎は、原則論より結果を大事にしていた。
「お客さんが楽しんでくれることがいちばん大事なんじゃないか」という考えから、受けるならと、下ネタも大サービスして客から笑いをとっていた。
萩本欽一にとって、そして坂上二郎にとって、180度違うお互いが「しゃくにさわる存在」になるのに時間はかからない。
楽屋では満足に口をきいたことがなった。その分、舞台ではものすごいエネルギーを発散しあった。
萩本欽一と坂上二郎が同じ舞台に立つとき、坂上二郎が引っ込む際に強烈なアドリブを放って、次に出る萩本欽一の出鼻をくじく。しかし、萩本欽一も負けじとアドリブ返しをする。
そうなると、文字通り引っ込みのつかなくなった坂上二郎がまた舞台に出てきてアドリブを返す。またまた負けじと萩本欽一が応酬。時間の制約が厳しいテレビではないから、2人のアドリブ合戦はどこまでもエスカレートして、客は興奮の坩堝と化す仕組みだ。
そこから、テレビカメラの枠に収まりきらないコント55号という火がつくような勢いの爆笑コントが誕生した。
萩本欽一は、自分の描いた笑いを具現してくれるパワフルな相手が欲しかった。坂上二郎は自分を思いっきり引き出してくれるパートナーが欲しかった。すでに芸の枠組みができあがっていたベテランの阿部に萩本の仕事はできなかった。
坂上二郎がいるから萩本欽一が生き、萩本欽一がいるからこそ坂上二郎が生きたのだ。
今、お笑いタレントは多数テレビに出演しているが、ひな壇要員や体力系ばかりで、芸でのし上がったタレントはいない。そりゃそうか。寄席番組もお笑いバラエティ番組もないのだから。
2011-12-01 03:31
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